走らない生き方〜〜私を変えた患者様の言葉〜〜

 私が研修医の1〜2年目だったと思うのですが、こんなことがありました。
 50代か60代ぐらいのある男性患者様が、入院してこられました。
 私が主治医になったので、患者様のところに言って病歴を聴取していました。
 病歴聴取の際には、現病歴(問題となっている病気のこれまでの経過など)、既往歴(過去にかかった主な病気)、家族歴、アレルギーの有無などいろんなことを聞いて、カルテに記録します。
 病歴聴取の際には、現在の運動能力、心肺機能の大ざっぱな目安として、私は患者様によくこんな質問をしていました。
 「(急いで電車に乗ろうとする時など)駅の階段を駆け上がることができますか。」

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 この日も、いつもと同じように、患者様にこの質問をしました。
 するとこんな答えが返ってきました。
 「私は急いで電車に乗ろうとして、駅の階段を駆け上がったりするようなことはありません。いつでも余裕を持って行動しているのでそんな必要がないのです。」

 私は少し驚きました。
 私の中の常識では、電車が目の前に入ってきて、走ったら間に合うというタイミングだった場合、階段を駆け上がって、電車に走り込むのが当たり前だったのです。ほかの誰にとっても、それは当たり前のことだと思っていました。
 なので、この患者様が、「駅の階段を駆け上がって、電車に走り込むようなことはしません。」と言われた時、そんな人がいるんだ。と思って驚いたのです。
 面白いと思いました。
 確かに、時間に余裕を持って行動していれば、乗り遅れそうなタイミングで電車が入ってきたとしても、別に走る必要なんてありませんよね。条件反射のように走っていた自分を、むしろ滑稽(こっけい)と思うようになりました。走らない生き方のほうがかっこいいと思いました。私も、これからは走らないようにしようと思いました。
 以来、私は、電車であっても、バスであっても、走らないと間に合わないタイミングであっても、原則として、走りません。乗り遅れたとしても、次の便に乗ればいいだけの話ですから。

 まあ、つまらないこだわりかも知れません。
 人が違えば、生き方も、価値観も、美学も違って当然です。こだわりのポイントも人それぞれでしょう。
 ですが、私は、この患者様の言葉で、見事に価値観、こだわりポイントが変わってしまいました。

 みなさんも、ちょっとしたきっかけで、自分の価値観が大きく変わってしまったというようなことはなかったですか。もし良かったら教えてください。

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